交通量もまた問題である。ブレンナー峠近くのオーストリアの村マトライでは、有料の高速道路を迂回して通る車で、狭い目抜き通りは渋滞している。 「私たちの村はとてもいいところですが、次々に車が来るので横断できないときがあります」とイング・マッカーウィーが言った。彼女は夫とペンションの私道 で、おびただしい数のバラの花びらや落ちた花を掃いていた。「もちろん、車は必要です。なかったらやっていけません。昔に戻って馬を使いたいですか? そ れとも、自分たちで背負って運びますか? そんなことはできないでしょう。車を使うのをやめられないのです」。
マッカーウィー家のような アルプス地方の人々は、独特な禁欲主義でも知られている。それは崩壊と孤立の世界で受け継がれた哲学で、いまでもさまざまな問題を解決するのに生かされて いる。ドイツとイタリアを結び、南のブレンナー峠までにオーストリアの山村をいくつも通り抜ける幹線高速道路沿いに住む大勢の人々と私は話をした。もしか したら怒鳴られることもあるかもしれないと私は覚悟を決めていたが、出会ったのはほとんどがマトライでケーキ屋を営んでいるウィルヘルム・ワグナーのよう な人ばかりだった。車の騒音が気にならないかと彼に尋ねると、彼はほほえんで肩をすくめた。「もしうるさいと文句を言うのなら、私も車を使うべきではない ということになります」。
一方、アルフ・アーノルドのように、現状を受け入れられないと主張する人々もいる。アーノルドが会員となってい る組織、アルペン・イニシアチブ(the Alpine Initiative)の本部に彼を訪ねた。この組織は輸送問題について人々を啓蒙し、スイス政府をはじめほかのアルプス諸国に対して商業輸送を車から鉄 道に切り替えるように働きかけている。